過去を嘆いても未来は変えられない。現在(いま)の行動を。

就職・転職活動において、ご自身の職歴が見栄えの良いものではないと感じ、過去を嘆く方は多くみられます。特に、一定の年齢まで職歴がない、あるいは、職歴に長いブランクがある、また、正規雇用での経験がわずかか全くない無い場合など、「こんな職歴でも大丈夫だろうか」という不安にさいなまれるということは良くあることです。

今日は、このような悩みを抱えている方に対するメッセージです。昨年頃からいくつかの事例に接する中で考えていることを書こうと思います。少し差し出がましい内容もあるかもしれませんがご容赦ください。また、あくまでも「面接に臨む」ことを前提としたメッセージであり、「生き方」などに言及するものではありませんので、そのつもりでお読みください。

過去は変えられない

現在からみて、自分自身で評価できないような過去がある場合、誰しも後悔するものです。この後悔を止めることはできませんし、止めるべきものでもないでしょう。しかし、はっきりしていることが1つあります。それは「過去は変えられない」ということです。

「もしあの時違う選択をしていれば」という考えは多くの人間が抱くものですが、「もし」は思考の中にあるだけであり、「もし」が現実化することは決してありません。過去は変えられないのですから、その過去をどうこうする選択肢は既に失われています。つまり、できることは「過去を受け入れる」ことだけです。

いざ転職活動を始めてエントリーシートを作成したり、面接のシミュレーションをしたりしていると、「あの時就職していれば」とか、「A社を3か月ではなくせめて1年ぐらい我慢して働いていれば」とか、「もう少しブランクが空かないように転職活動していれば」とか、「妥協せずに正規雇用を求めていれば」とかいった後悔を感じる人は多くいます。しかし、「3か月で離職したこと」、「長期のブランクが生じたこと」、「非正規の職歴しかないこと」といった事実は変えられません。

したがって、そのような過去は事実として受け止め、それを出発点として就職・転職活動をするしかありません。

過去の書き換えはすべきではない

ご自身の過去が現在の足を引っ張っていると感じたとき、中には「履歴を書き換えよう」と考える人がいるかもしれません。虚偽の職歴をでっちあげたり、虚偽の期間に書き直したりするということです。

しかしこれは決してすべきことではありません。

履歴を偽って就職したことが判明すれば免職される可能性もあります。職歴は、給与の決定などに影響を及ぼす可能性のある事項ですから、後々に判明した場合に懲戒の対象になる可能性が高いものです。また、内定後、勤務実績を証明する書類の提出を求められることも多く、すぐに虚偽は判明してしまいます。

ですから、履歴事項に虚偽を書くことは絶対に良くありません。

また、履歴自体で嘘をつくことはしないまでも、「なぜそうしたのか」という質問に対する回答で嘘をつくこともありえます。たとえば「なぜ短期間で会社を辞めたのですか?」とか、「なぜこの時期は仕事をしていないのですか?」といった質問に対して、本当のことを回答しないパターンです。

これは証明すべき事実について虚偽を申告するわけではないので、絶対にダメというわけではありません。しかし、まったくの嘘をつくことも推奨しません。たとえば「なぜ短期間で会社を辞めたのですか?」という問いに対して、実際はその会社の仕事がきつくて辞めたのに、ネガティブな印象を与えないことを意図して「○○をやりたいと思い準備に集中するために辞めました」などとでっち上げるパターンです。本当に「○○をやりたい」と思って多少なりとも行動していたのなら良いのですが、そのようなことは全くないのに先ほどのように回答するのは推奨しません。なぜなら、この1つの嘘で、次々と嘘をつかなければならなくなるからです。深掘りされていくと、「○○をやりたいと思っていたのなら次の行動はそうならないのではないの?」といった回答になることも良くあります。面接官は「それは嘘でしょう」と指摘することはまずありませんから、本人は切り抜けられたと思っていても、実際には「何かおかしい」とか、「これは本当のことではないな」という印象を与えていることも多いのです。どのような企業・組織であっても応募者の「不誠実」は真っ先に切り捨てるべきものですから、このような印象は致命的です。

したがって、このように絶対にやるべきでないとまでは言えない過去の改変についても、まったくのゼロから話を作り上げるのではなく、事実の延長になるような多少のアレンジ程度にとどめることが必要です。

過去を改変するのではなく「捉え直す」

就職・転職活動を行うにあたって、ご自身に「不利」に作用しそうな履歴を悔い、何とかそこから逃れようとする心理はわからなくもありません。しかし、上記のように、過去は変えられないものであり、また、過去を人為的に書き換えることはより大きな問題を生じさせたり、目の前の目標達成にもマイナスの影響を及ぼします。事実関係を偽ってはならないのです。

しかし、過去の「捉え方」を変えることはできます。

たとえば「正規雇用の経験がない」としても、「非正規の仕事を通じてどんな気づきや学びがあり、どんな成長ができたのか」をきちんと捉え直すことができれば、それは決してマイナスの履歴ではなくなります。

また、現在の自分から見て「誤りだった」と感じるような選択をしたような場合であっても、「なぜそのような誤りをしたのか」、「自分の何がそれを選択させたのか」、「その間違いを経験したことで自分の何が変わったのか」を見つめ直すことで、単なるマイナスだけではない経験にすることもできるでしょう。

もちろん、過去の事情は、すべてご自身の自由意思によって生じたものとは限りません。置かれた環境や条件の中で不可避であったという場合もあるでしょう。これが「不利な履歴」に該当すると感じられる場合は、「悔い」とは異なるなんとも言い難い辛い気持ちになることもあるのではないかと思います。

しかし、自分の意思ではどうしようもならない不可避な事情も、採用側から見れば「その人の一部」です。もちろん、その人の責任ではないことは理性的にはわかるでしょうが、評価に影響を及ぼす可能性は否定できません。そうであれば、このような事情も「自分の一部」としてまずは受け入れることが必要です。その「過去」が「現在」の自分にどのように影響しているのか、単にネガティブではなくポジティブな影響もあるのではないか、という観点で捉え直してみるのです。

ネガティブな感情は悟られやすい

科学的な根拠については専門外なので言及しませんが、経験上も「ネガティブな感情には気づきやすい」と言えると思います。面接の場でも、どんなにポジティブな言葉を並べられても「この背景にはネガティブな感情が潜んでいる」ということが感じられる場面があります。

履歴について深堀りして聞いていくと、「自分自身が肯定的に評価している」、「特に良いとも悪いとも思っていない」、「あまり納得していない」、「自分自身が否定的に評価している」といった差異は、発せられる言葉からだけではなく話している様子などからも伝わってきます。特に「自分自身が否定的に評価している」というのは比較的わかりやすいと思います。

したがって、自分自身が過去の履歴について「自信が持てない」、「誇りが持てない」、「意味のないものだった」などと評価しているとすれば、どんなに回答原稿を用意して職務経験から自己PRをしたところで、面接官には全く響かないものになってしまうでしょう。

かといって、ネガティブな自己評価を180度ポジティブなものに変換することは不可能だと思います。しかし、「もっとこうであれば良かったとは思うが」という留保は付けつつも、「この点は真剣に努力した」、「この点では成長があった」、「この経験の中で次に繋がる想いが生まれた」など、経験の価値を見出すことは不可能ではないでしょう。その経験の真っ只中ではわからなかったことも、「現在」からの捉え直しであれば価値を見つけることができる可能性は十分あるはずです。

未来を決めるのは現在(いま)の行動である

ご自身の「不利」だと思える履歴が気になって、就職・転職活動の中で気持ちが沈んでしまうというのは、「変えられない過去をただ悔いる」とともに、「実現していない未来を勝手に予測して心配する」ということにはまり込んでいるとも言えます。

「過去は変えられない」し、「未来は誰にも予想できない」ものです。大切なのは「現在(いま)」なのです。

過去を振り返るのであれば、ただ悔いたり、過去を変えたいと思ったりするのではなく、現在(いま)から過去を捉え直して糧にすることです。その糧を武器に現在(いま)に集中して行動すれば、未来が拓ける可能性が見えてくるはずです。