口下手だから面接がうまくいかないというのは本当か。
■もくじ(クリックでジャンプします)
口下手だから面接がうまくいかない … そんな風に思っている人は多いかもしれません。確かに話すことが苦にならない人に比べれば、口下手な人にとって面接は苦痛なものだろうと思います。そして、面接でうまく回答できず評価されなければ、それは「口下手のせい」と思うのも無理のないことでしょう。
話し上手であることへの評価はほんの一部分に過ぎない
現在の社会では、事務系の仕事であれ技術系の仕事であれ、一定のコミュニケーションが必要とされます。したがって、コミュニケーションが上手にできるかどうか、というのは確かに評価の一部にあります。
しかしそれは、仕事に必要な範囲でのコミュニケーションであり、過剰にコミュニケーション能力が求められているわけではないのです。例えば「話すこと」自体が仕事であるような職種、あるいは顧客(エンドユーザー)との接触が多い職種であれば、「流暢に話せること」や「相手との会話がはずむようなコミュニケーション」が求められる場合もあるでしょう。しかし、多くの職種ではそこまでのものは求められていません。必要なコミュニケーションというのは「どのような仕事をするのか」によって左右されるものであり、話し上手であることが常に求められているわけではないのです。
例えば他部門との連携や交渉が頻繁に生じるようなポジションであれば、当然他者とのコミュニケーションが求められますが、それは必ずしも話し上手である必要はありません。相手の立場を理解した上で、適切に主張を調整して妥協点を見つけられるような能力の方が重要であり、流暢に話すことが必要なわけではないのです。
また、職場の上司や同僚などとのコミュニケーションにおいても、「話が弾む人」が求められているわけではありません。もちろんそういう人が周囲から好かれやすい面はあるかもしれませんが、肝心の仕事のスキルが低ければ問題外になります。
つまり、話し上手であることは、一部で有利になる場合はあるものの、ほとんどの職種では決定的なアドバンテージになるわけではなく、評価要素のほんの一部に過ぎないということです。
話し上手で中身も伴っているひとはほんの一握り
しかし、面接は会話によって自分をアピールする場ですから、「アピールすべき自分」を正しく相手に伝える必要はあります。「アピールすべき自分」というのは、知識やスキル、経験、思考や性格の傾向などの面で、「優れている」と主張すべきもの、「強み」です。
面接の場では、実際に備わっている自分の強みを表現しなければなりません。能力もあり親切な面接官はそれを引き出すような質問をし、話しやすい雰囲気を作ってくれるでしょうが、多くの面接官はそこまでの能力も親切さもそなえていません。ですから、「強み」をどう表現するのかについてはきちんと考えておく必要があります。
「どう表現するか」について、「話し上手」な人が有利だと考えがちですが、私の経験上必ずしもそうも言えません。「話は上手いが、強みが十分に伝わってこない人」というのは沢山います。むしろ、普段の生活や仕事で、「いつも同僚や上司、顧客と上手く会話ができている」、「大学では友達も多く、いつも周囲とにぎやかに過ごしている」という人ほど、「伝えること」に無頓着で、面接で十分なアピールができないというパターンは多いものなのです。
「話し上手」であることによって、「そつなく回答すること」、「間を空けずにスラスラと答える」ということはできるのですが、面接官からすると「いったいあなたはどんな人なのですか?」、「どこが優れているのですか?」と思ってしまうような回答は多いものです。
自分をアピールするというのは多くの場合、過去の出来事や経験を話すことになります。話し上手な人はこれらの出来事や経験の「大まかなイメージ」を伝えることは上手なことが多いのですが、その中にいる「自分」を表現しきれないことが多いものです。表現できたとしても「何を考えたのか」に力点を置きがちで、リアリティのある「自分」の像を面接官が描くことができないのです。この点で重要なことは「行動」を話すことです。過去の出来事や経験の中にいる自分が「どう動いたのか」を具体的に伝えなければ「あなたがなんであるのか」はわからないのです。
「話し上手」な人は、話が支離滅裂になることはなく、上手に話をまとめることができますが、リアリティのある「自分」を表現する能力が優れていることは稀です。しかし、面接ではこの点が非常に重要となります。つまり、「話し上手」なのか否かではなく、「伝える」ということをしっかりと考え、そのための取り組みをしたかどうかが勝敗を分けるのです。
本当に話下手なのか、話すことがないのではないか
たとえば、次のような質問にどのように答えるのかについて、見てみましょう。
この回答は、一応質問に答えてはいます。また、特に間違ったこと、特異な考え方を述べているわけではありません。しかし、この回答を聞いた面接官はAさんがどんな人なのか理解できるでしょうか。もっと言えば、「Aさんはコミュニケーションを大切にする人なのだな」と本当に思ってくれるでしょうか。1
この回答に足りないのは、「良好な関係を築くために具体的にどのようなコミュニケーションを取ったのか」です。他の部員には様々なタイプの人がいるでしょうし、すべての人と気が合うとは限りません。意見が衝突する人もいれば、熱意のレベルに差がある場合もあるでしょう。そういう人たちに対して「何を話したのか」、「どんな働きかけをしたのか」、「相手に影響を与えるどのような行為をしたのか」を述べなければ、集団の中でのAさんのリアルな行動特性は伝わりません。
では、「それらを話せば良い」と言われて、きちんと話せる人はどれくらいいるでしょうか。実際には、自分とは異なる他者との関係をどう結ぶのかについて、大した意識もなしに過ごしている人の方が多いだろうと思います。特に日頃から自分を「話下手だ」と自認している人は、このような経験を思い起こそうとしても、なかなかリアルな経験として思い浮かぶものは少ないかもしれません。
つまり、多くの場合、問題は「うまく話せない」ことではなく、「話すことがない」ことなのです。そしてなぜ「話すことがない」のかというと、この例でいえば、「日頃からチームのことを考えていない」、「周囲の他者のことに関心を払っていない」ということが原因であることが多いのです。
あえて、厳しい言い方をすると、「話すことがない」理由は、口下手であるためではなく、「他者に関心がない」せいかもしれません。
口下手であるからこそ中身を大事にしよう
全ての人に当てはまることではありませんが、口下手だと自認している人は、うまく話せない理由が、「実はそのことを真剣に考えたことがない」なのではないか、ということを疑ってみると良いと思います。
もし「うまく話せない」というハードルを否定できないなら、回答を文章に書いてみてください。文章に書くだけなら口下手であるかどうかは関係ありません。それでも中身のあることが書けないのであれば、それは「考えていない」あるいは「行動していない」からです。あるいは、何かを経験する際の向き合い方が表層的で、「そこで考え行動する」ということに結びついていない可能性もあります。多くの人は、特別な経験をしているわけではありません。しかし、似たような経験に見えても、その経験がその人に与えてくれるものには大きな差があります。「何を経験したのか」ではなく「どう経験したのか」が大切であり、それが面接での回答にも影響するのです。
とはいえ、過去は変えられませんし、面接に合わせて新たな経験をするのも間に合いません。そうであれば、「あの時どうすれば良かったのか」、「あの時うまくいったのはなぜなのか」、「あの時失敗したのはなぜなのか」について深く考えてみてください。過去の経験をもう一度吟味するだけでも、面接の回答は大きく変わります。「今にして思えばそうだ」という回答にしても良いですし、「その当時もそう考えていた」体で話す方法もなくはありません。2
「自分は口下手だ」と考えている人は、だからこそ中身で勝負しなければいけません。しかし、その「肝心の中身がない」という壁にぶち当たる可能性はあります。それに気づいたら気持ちは落ち込むかもしれません。しかし、もしこれが原因なのであれば、これに気付くだけでも大きな飛躍です。3その当時考えたことではなく、現時点で考えたことであったとしても、その経験からしっかりと何かを得ようとするだけで、「何を話すべきなのか」がはっきりしてきます。
もっと安直な方法が欲しいと思うかもしれませんが、実はこの「気付き」こそが、「口下手で面接がうまくいかない」と考えている人にとってのファストパスである可能性もあるのです。
早稲田大学法学部卒業。大手資格就職予備校にて法律科目およびESシート作成・面接指導専任講師として約13年勤務。大学でのセミナー実施多数。面接指導担当者の研修にも従事。民間企業で人事採用面接を7年間担当。面接が苦手な方にも寄り添う指導で対応力を引き上げます。