問題はネガティブな履歴ではなく自分自身の向き合い方である

どんな人にも弱みはありますが、特に面接選考でマイナスに作用しそうな弱みがある場合は、不安な気持ちで面接に臨むということもあるでしょう。

弱みとなる履歴だけで不採用になるわけではない

特に履歴に関することは、客観的事実でアレンジの効かないものですから、不利になることを避けられないと考えるのは自然なことです。例えば、「ニートの期間が長かった」「離職期間が長かった」「短期間での転職が多い」、新卒であれば「学生生活でサークルもアルバイトもしていない」、「留年をしている」など、書き換えることができない過去については、不利に扱われることを心配してしまうのも無理はありません。1

たしかに、人事は履歴書を見たとき、上記のような履歴には敏感に反応します。学歴や職歴欄の年月記載から経緯を把握しようとする中で不自然だと感じるところを見つけるのは人事の常です。したがって、履歴を見て「これはなんだろう」と思うのは確実だと言ってもいいでしょう。

しかし、その履歴のみをもって不採用にするという決断をすることはあまりありません。また、もし履歴自体問題であれば、書類選考で切られているはずです。

現在の自分から見てその履歴をどう考えているか

では、この「弱みとなる履歴」についてはどのように考えておけば良いのでしょうか。

なぜそうなったのかを考える

弱みとなる履歴が生じた理由は様々だと思います。何かやむを得ない事情があった場合、例えば健康上の問題、家庭や経済的な事情など、自分の力だけではどうしようもない事情によるものであることもあるでしょう。あるいは、当時の判断としては「それが良い」と考えたけれど後で後悔したという場合もあるかもしれません。また、「特に深く考えず流れに身を任せていた」というようなこともあると思います。

避けられない事情があった場合、それを面接で述べることに差し障りがないのであれば、ありのままを説明すれば良いと思いますが、それ以外についてはどうでしょうか。

ご自身が「この履歴は不利だ」と感じているのですから、「その時何を選択するべきだったのか」、「どう行動するべきだったのか」について一定の考えがあるはずです。それは、日常的には漠然とした「後悔」のようなものかもしれませんが、面接に臨むにあたっては、意識的に自己分析の対象にする必要があります。

現在の自分ならどうしたのか

もし現在の自分から見て、「誤った選択」、「誤った行動」をしたのだと考えているのなら、「なぜそのような選択、行動をしたのか」、「なぜするべき行動をしなかったのか」など、当時の自分を客観的に分析することが不可欠です。その上で、「では、現在の自分ならどうしたのか」を考えるのです。

「誤った選択」、「誤った行動」をしない人間はいません。ですから「誤り」自体が問題ではないのです。しかし、「誤り」を認めた上でその後どう考えるのか、「自分をどう変えるのか」はその人が「どんな人なのか」を構成する重要な要素になります。

人事が面接に呼ぶのはポテンシャルを確かめたいから

一見ネガティブに見える履歴がありながらも人事が面接に呼ぶのは、その履歴の原因を確認し、その人がその事実とどう向き合って現在の自分を形作っているのかを見極めたいからなのです。一見マイナスに見える履歴であっても、それへの向き合い方によっては、「ポテンシャルがある」、「自己変革できる力がある」、「一緒に働いて応援したい」と思うような人かもしれない、そんな期待を持っているのです。

具体例1:サークルもアルバイトもしなかった(新卒)

例えば、「大学時代、サークルもアルバイトもしていなかった」という人は、なぜ多くの人と同じような行動を取らなかったのか、その理由を考えてみましょう。別に立派な理由である必要はありません。「大学には勉強しに行ったのでサークルは必要ないと思った」、「特にやりたいサークルはなかった」、「どこに行っても馴れ合った関係ばかりが目について自分には必要ないと思った」などの理由でも構いません。アルバイトについても「特にお金に不自由していなかったので必要性を感じなかった」、「やってみたいと思うような仕事がなかった」というような理由でも構いません。あるいは、「推し活に集中するためにアルバイトもサークルもやらなかった」ということもあるかもしれませんね。それが当時の正直な考えであれば、まずはそれを受け止めてみてください。

その上で、現在の自分から見てそれをどう評価するのかを考えてみましょう。「人一倍勉強に力を入れて後悔はない」ということもあるでしょうし、「思ったほど勉強に熱中できず中途半端に終わって後悔している」、「実際にはサークルが楽しそうだと感じて羨ましく感じることもあった」、「決めつけずもっと色んな人と関わればよかったと思っている」ということもあるでしょう。また、「アルバイトはお金のためだけではなく社会勉強としてやっておけば良かった」と思っていることもあるかもしれません。

そうであれば、この「後悔」を正直に言葉にすべきだと思います。「当時はこう考えていたが実際には違っていた、後悔している」ということをまずは伝えれば良いのです。その上で、「今後はこうしていきたい」あるいは「このように行動を変えている」ということを伝えれば良いのです。

具体例2:ニートの期間が長かった

「ニートの期間が長かった」という人は、特にご自身の履歴に不利を強く感じていることも多いと思います。しかし、過去は変えられないのですから、その過去をどう受け止めるのかが大事です。

ニート期間が長いというのは、履歴書では、学校卒業後の長いブランク、あるいは会社退職後の長いブランクとして表れますが、人事は必ずこの点を確認してきます。「この期間は何をしていたのですか」といった質問ですが、多くの人はこの質問への回答をある程度は準備していることでしょう。

たとえば「○○を目指して勉強をしていた」とか、「自分の適性を見極めるために色々と調べ考えていた」とか、場合によっては事実とは異なる「家族の介護をしていた」などの事情をでっちあげることもあるでしょう。

これらが全てダメなわけではありません。しかし、面接官がその回答に本当に納得しているかどうかは怪しいところです。上記のような回答で、例えば1年以上のブランクがある場合、その回答の信憑性には疑問を抱く面接官は多いと思います。しかし、しつこく「本当に?本当に?」と突っ込んでくる面接官は稀で、「納得いかない答えをされた」という印象だけ残して次の質問に進む場合の方が多いだろうと思います。

一概には言えませんが、ニート期間において「自分との対話」を繰り返している人も多く、それは他人に語るようなものではないにせよ、現在のご自分の一部を作っているものだろうと思います。すべてを正直に話すことは難しいかもしれませんが、当時の自分の悩み、社会に対して引っかかっていたことなどを少しソフトに表現しつつ、葛藤していたことを伝えた方が良い場合があると私は考えます。「何に悩んでいたのか」、「何に迷っていたのか」、「なぜ踏み出せずにいたのか」といった正直な気持ちを織り交ぜながら、そこから現在の自分に「どう変わっていったのか」を伝えた方が、面接官の納得度は高いと思います。

もし、その時期が「躓き」であるならば、その「躓き」をきちんと表現し、それを「どう乗り越えたのか」を率直に説明することで、面接官には「深く考える人」、「自分を見つめ変えることができる人」、「特別な感性を持っている人」と思われる可能性も十分あります。2

人は成長するものだということが前提

不利に作用しそうな履歴がある人は、「ハンディを負っている」と考えがちです。確かに社会は厳しいので、その履歴があるだけで採用しない企業や組織もあるでしょう。しかし、書類選考を通過して面接の呼ばれているのであれば、他の応募者と同じスタートラインに立っていると考えるべきです。

そして問題は、不利に見える履歴に「自分がどう向き合っているのか」です。その向き合い方や今日に至るまでのプロセス、変化した現在の自分をしっかりアピールできれば、不利に見える履歴は決して不利なだけのものではなくなる可能性が十分あります。

有能な人事は、現時点での人材価値だけでなく、将来得られる人材価値も見極めようとしています。つまり、採用活動は将来への投資でもあるわけです。そこには、「人は成長するもの」という考えがあり、それは「過去」、「履歴」への評価でも同じです。「不利な履歴」を不利なまま終わらせるのではなく、自分の潜在的な可能性に結びつけることができるかどうかは、自分自身の過去との向き合い方次第なのです。

不利な履歴がある人ほど正面突破を目指すべき

一見不利に見える履歴がある人は、「ここを突っ込まれないといいな」とか、「どうやって差し障りのない説明をしようか」などと考えることが多いものです。極端な場合は、履歴の書き換えまで考える人もいます(これは絶対にやってはいけません)。

しかし、不利な履歴がある人ほど、面接では「正面突破」を目指すべきです。過去の「不都合な事実」と自分自身が正面から向き合い、評価し、現在の自分にどう繋がっているのかを考える(場合によっては自分の中の非常な大切な部分と繋がっていることもあるはずです)、そしてそれをきちんと説明する、ということを考えてみてください。

ネガティブなことを隠すのではなく、それをしっかりと受け止め前進していることを表現できれば、それは既に「ネガティブ」な事情ではなくなるのです。


  1. これらはネガティブな事情だと受け止める人事の割合が高いということであって、必ず客観的な「弱み」となるということを意味するわけではありません。 
  2. もちろん、常にそれが成功するとは限りません。これが通用する可能性があるのは、応募者目線に立てる人事、度量の大きい企業風土などの条件が必要かもしれません。しかし、表面的な繕いで臨むよりは成功確率が高いというのが経験上の実感です。また、実際の指導の場面では、面接官に与える印象を考えながら表現を調整しています。